矯正治療って何のために行うの?

「矯正治療って何のために行うの?」

私は大学を卒業してから歯科矯正科という分野の大学院に進み、大学病院で10年ほど矯正歯科治療と学生の教育、研究を行っておりました。
また、大学院生ですので毎日、毎日遅くまで博士号を取得するために研究を行い、当時の恩師である鈴木祥井教授の指導のもと、日本で一番権威ある矯正学会である日本矯正歯科学会というところに原著で2編論文を提出し、無事に歯学博士という称号をとりました。

それは、それは毎日ハードな日々でした。
朝早くから研究室に行き、病院の診療時間になると患者さんの治療をし、患者さんの治療予定がないときは学生の教育、その合間に学食で昼食や夕食を食べ、その後はまた研究室に閉じこもるという生活を送っておりました。

ではなぜ、こんなに大変な矯正科に残ろうと思ったのかですよね。
それは、歯科矯正という分野が大学を卒業しただけではしっかりと学ぶことが出来ない特殊な診療科であったためなのです。

先にも書かせて頂きましたが、歯科医師と言われるからにはすべての分野において豊富な知識と技術を有しなければならないと当時から常に考えておりましたので、当然、歯科矯正という分野であっても歯科医学の1つの分野であるなら、できなくてはいけないと真剣に考えていたのです。
そんなわけで、歯科矯正治療というものに携わるようになって早や24年という年月が過ぎたわけですが、現在でも矯正治療ができて本当に良かったなと思えることが沢山あります。

そこで今回は、なかなか皆さんが知ることができない矯正治療に関するお話をさせていただこうかと思っておりますが、ここでは教科書に載っているような決まり決まったことではなく、私が24年間矯正治療というものを行ってきて実際に感じていることをそのまま書かせていただこうと思います。

まず、歯科矯正という分野は何のためにあるとお考えでしょうか。
みなさんが思い浮かべる矯正治療というものは、歯並びを美しくするための方法、すなわち患者さんの審美面を回復する治療法というのが一般的な回答なのではないでしょうか。

正解です。
これこそが矯正治療のもっとも大きな役割ですし、矯正治療を行っても歯並びがきれいにならないのであれば、矯正治療を行った意味は何もないといっても過言ではありません。

しかし、みなさん良く考えてみて下さい。歯並びがガチャガチャだと本当に美しくないですか?
一昔前のアイドルといわれる人たちは、皆さん八重歯がありましたし、それがチャーミングポイントなどと言われてもてはやされてもいましたよね。
ところが、その当時のアイドルといわれていた人達が現在どのようになっているのか皆さんご存知でしょうか?
ほぼ全員といってもいいくらい、皆さん八重歯がなくなっています、あの有名な松田聖子さんも現在では八重歯がありません。
すなわち、美しさというものは年齢によっても変わりますし、その時代によっても移り変わりがあるものであり、決して普遍的なものではないということなのです。

そのように考えると、美しさの獲得ということは矯正治療の大きな役割ではあるものの、決して最重要の役割ではないという感じがすると思うのです。

では、いったい矯正治療最重要の役割とは何なのでしょうか?
私が、長く矯正治療を行ってきた経験から申し上げられるのは以下のようなことです。

  • 本人が歯並びを気にすることによって大きく口をあけて人前で笑えないとか、話ないなどの理由により、精神的に内向的になってしまったり、物事に消極的になってしまったりすることがありますが、矯正治療をすることで性格まで非常に明るくなります。
  • 歯並びがきれいになることで虫歯や歯周病になってしまうリスクが非常に低減さます。歯並びが悪く、歯が重なり合ったりしていると、本人がどんなに一生懸命を磨こうと思っても、物理的に不可能であり、将来は必ず虫歯や歯周病になってしまうことは明白です。


そういった観点から考えてみると、矯正治療の最も重要な役割というのは、将来、内向的、消極的になってしまったりしないように、また虫歯や歯周病になってしまったりしないように、そういった将来にわたる様々なリスクを低減するための予防的要素が非常に強いということがお分かりになっていただけると思うのです。

矯正治療を行う場合にはブラケットといわれる装置を歯に接着して歯を動かしますので、装置の周囲に食べかすやプラークが付着してしまい、お口の中が非常に不衛生な状態になりやすく虫歯や歯周病がとても発生しやすい環境になっております。
せっかく矯正治療をして将来虫歯や歯周病になりにくい環境をつくろうとしているのに、矯正治療中に虫歯や歯周病になってしまったのでは、元も子もありません。

したがって、現在すでに矯正治療をしている方や、これから矯正治療をしようと考えられている方は、せっかく矯正治療を行うわけですから、この期間に虫歯や歯周病をつくってしまわないように、ぜひとも毎日しっかりと歯磨きを行っていただきたいといつもいつも感じております。
みなさん歯磨き頑張ってくださいね。